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法医学教室の池田知哉教授が赴任されました

2023年03月30日

新任のご挨拶 池田 知哉

 この度、令和5年3月1日付で社会医学講座法医学分野の教授に就任した池田知哉と申します。私の出身は山形県ですが、幾度かの引っ越しを経まして高校進学時に福岡県に引っ越してきました。その後、産業医科大学に進学・卒業し、青森県にて初期研修を行い、産業医科大学救急集中治療科で2年間後期研修をしたのち、平成25年に東北大学大学院に進み法医学の道に入りました。大学院修了後、平成29年度から大阪市立大学(現大阪公立大学)法医学で勤務しておりましたが、今回10年ぶりに九州の地に戻ってくることができ嬉しく思っております。

 法医解剖においては生前の情報が得られないことが多く、様々な死後変化の考慮も必要であり、臨床診断で用いられるような明確な診断基準や各種検査結果等の客観的な基準値はほぼありません。このような症例に対して、誰にでも利用・理解しやすい客観的評価法を作成することができれば、説得力のある鑑定ができるだけでなく、遺族や医学的専門知識がほとんどない人が参加する裁判員裁判等にも有用であると考え、私はこれまで主に法医学に関する研究として新たな法医診断法の開発に取り組んできました。

 大学院では、「死後CTを用いた年齢推定」について研究し、肋軟骨石灰化の年齢変化を検討し、これまでの主観的で観察者間誤差の大きい形態分類ではなく、CTから得られる客観的な数値評価による新たな年齢推定表を作成しました。日本は世界的にもCTの普及率が非常に高く、法医学の分野においても解剖前の補助として撮影する法医学教室が増えてきているだけではなく、佐賀大学にもAiセンターがありますように一般の病院においても死因究明に利用するための死後CT撮影が広く浸透してきています。現在佐賀大学では法医学剖検例のCT撮影は行っていないですが、今後諸先生方と協力して撮影をすることができればと考えております。

 大阪市立大学では、新たな法医診断方法として、「浮腫」の評価を、CTをはじめとした画像を用いて数値化することで客観的評価を可能にする方法の研究や、特異的所見に乏しく診断がしばしば困難な凍死症例について客観的な診断マーカーとしてコルチゾールが有用であるか検討するとともに、その生理学的意義について研究してきました。また、令和3年7月から令和4年6月までの1年間、イタリアのパルマ大学に留学し、急性期の皮膚の創傷の研究や、社会医学的研究として近年特にヨーロッパで注目されている、Femicideといわれる女性殺害事例についての研究をしてきました。留学ではヨーロッパにおけるCOVID-19の取り扱い・考え方や、留学中に勃発したウクライナ侵攻の問題を身近に感じることができる等、法医学以外にも貴重な経験ができました。

 法医解剖は、人に施す最後の医療行為と言われることがあります。解剖の重要な役割は、まずは犯罪や事故の見逃し防止であり、死因の究明は死者の尊厳を守ることにもつながります。また、法医学が扱う分野は遺体だけではなく、虐待の鑑定、損傷の成傷機転の鑑定といった生体鑑定も含まれます。虐待事例への適切な判断を下すことによって、児童や高齢者の福祉にも貢献しております。このような業務を行うことができる法医学機関は佐賀県内では唯一当教室のみです。政府の施策としても精度の高い死因究明を目的として日本の解剖率を引き上げるという目標を掲げています。佐賀県で司法解剖を行うのは私1人となっているのが現状ですが、社会秩序の維持や社会活動に必要な迅速な解剖業務に支障がでないように、佐賀県内で発生した全ての解剖事例を施行し解剖率を引き上げていくとともに、非常に少ない法医医師数が少しでも増えるように教育にも力を注いでいければと考えています。今後のご指導よろしくお願いいたします。